130th 部誌

おとめ山公園における湧水についての研究紹介

青山空弥(高2)

■はじめに

水文班の青山です。今回は水文班で行っている研究について紹介したいと思います。

本研究のテーマは「新宿区立おとめ山公園における湧出量変動メカニズムの推定」、難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば「おとめ山公園の湧水はどこの地層から来ているのか」ということになります。

おとめ山公園での研究は10年以上行われているのですが、この中でおとめ山公園の湧水は下部の武蔵野ローム層と上部の武蔵野礫層という2つの地層にそれぞれ滞留した地下水が湧出していることがわかっています。ダイアグラム

低い精度で自動的に生成された説明

おとめ山公園の湧水は、言うなれば「ミックスジュース」でしょうか。「りんごジュース×バナナジュース」そんな感じです。本研究では湧水(ミックスジュース)のうち、りんご(武蔵野ローム層)とバナナ(武蔵野礫層)は降雨によってどのような反応をするのか考えました。

注意しなければならないのは、この2つの成分が互いに干渉しているということです。武蔵野ローム層と武蔵野礫層の間には下末吉ローム層が存在します。下末吉層は火山灰土で、透水性は低いとされています。しかし透水性が低いことは、すなわち水を通さないのではなく、急激な地下水面の低下または上昇を引き起こします。つまり地下水面が武蔵野ローム層から武蔵野礫層へ低下する場合、急激な低下を起こすのです。地下水位変動に緩急があることは後に説明します。

ここまでわかっていただけたでしょうか。湧水は2つの層からの地下水の流出によって形成されており、湧水について知りたければ、まず地下水について調べることから始めていく必要があるのです。ではここから説明に入っていきましょう。

■地下水位変動を段階に分類

まずは前提事項を二点ほど。一点目に位置関係です。おとめ山公園は高田馬場駅から徒歩7分、海城からは25分です。今回地下水データを用いたのは地図上の井戸Aです。民家の井戸をお借りして計測を行いました。ダイアグラム

低い精度で自動的に生成された説明

二点目に2020年の11、12月は例年と比べ降水量が少なく、特に11月の東京の降水量は過去143年で3番目に少なかったのです。これが例年にはない地下水位低下と湧出量減少を引き起こします。

さて、では地下水からたどっていきます。右図は2020年10月~2021年3月までの地下水位変動です。地下水位変動の緩急によってステージ分けを行いました。T.P.+28.9m以上で変動が緩やかなStage1、26.5~28.9mの変動が急激なStage2、26.5m以下の変動が緩やかなStage3です。Stage1とStage2が存在することは先行研究(鈴木ほか、2018)で示されており、これにさらなる地下水位低下によって引き起こされたStage3を加えたものです。以上のステージ分けを地質データと照らし合わせますと、Stage1は武蔵野ローム層、Stage2、Stage3は下末吉ローム層です。つまりStage1とStage2の間には明確な地層の違いがあるということになります。グラフ, 折れ線グラフ

自動的に生成された説明

■地下水位、湧出量の変動を雨の降り方で分類

続いてStage3時の降雨に対する地下水位の反応を見ていきましょう。降雨①(総雨量44.5㎜、最大降雨強度3.5㎜/h)と降雨②(総雨量47.5㎜、最大降雨強度11.5㎜/h)は総雨量に関しては同量ですが振り方が異なります。降雨①は「弱く、持続する雨」、降雨②は「強く、持続しない雨」と言うことができます。上記二つの降雨は地下水位の上昇量が異なり、降雨①より降雨②で大きな地下水位上昇が起きています。そして、降雨②の上昇はちょうど武蔵野ローム層と下末吉ローム層の間(Stage1とStage2の間)で止まっていることがわかります。では、湧出量の方はどうでしょうか。同期間の湧出量変動について見てみましょう。ダイアグラム

自動的に生成された説明

降雨②より降雨①で湧出量の増加がみられています。つまり、地下水位と湧出量で反応する降雨が異なるということになります。

ここで一つ補足を入れますと、先行研究(高野ほか、2015)で武蔵野ローム層からの湧出は約3日間、武蔵野礫層からの湧出は約30日間持続することがわかっています。右の図を見ていただくと、降雨①の後、湧出量は1か月ほど降雨による影響を受けています。つまり、降雨①後の湧出は武蔵野礫層からであると推定することができるのです(最初のたとえで言うと、降雨①後の湧出はミックスジュースではなく、ほぼバナナジュースであったということです)。

今回のケースは降水量が非常に少ない時期に見られた降雨のため、きれいな分離ができていますが、本来は二つの湧出成分が混ざり合っています。まさにミックスジュースです…。

地下水位と湧出量で反応する降雨が異なる点に話を戻しましょう。なぜ、こうしたことが起きるのでしょうか。この際注目すべきは、武蔵野ローム層からの中間流出と下層への雨水の浸透です。最初におとめ山の湧水は武蔵野ローム層と武蔵野礫層からの湧出によって構成されていることを話しましたね。武蔵野ローム層は一番上の層で、雨水はまず武蔵野ローム層に浸透しますが、浸透した雨水の動向は、湧出・層内で滞留・下層に浸透の三つがあり、雨水の動向によって地下水位や湧出量に与える影響が異なります。ダイアグラム

中程度の精度で自動的に生成された説明

降雨①は「弱く、持続する雨」でしたので武蔵野ローム層に浸透した地下水は滞留することなく下層に浸透後地下水面に達し、湧出量の増加を起こします。これが降雨①の湧出量増加の正体であると推定されます。一方で降雨②は「強く、持続しない雨」ですので、浸透や湧出を超える量が武蔵野ローム層内に浸透し、行き場を失います。雨水は層内に滞留し、武蔵野ローム層内に地下水面を形成します。これが降雨②の地下水位上昇の正体だと推定されるのです。

■まとめ

おとめ山公園の湧水は武蔵野ローム層からの湧出と武蔵野礫層からの湧出の二つの成分があります。地下水位変動を緩急によって三つのステージに分類すると同時に湧出成分も分類することができ、地下水位がT.P.+28.9m以上(Stage1)の場合、地下水面は武蔵野ローム層に位置し、湧水は武蔵野ローム層からの湧出と武蔵野礫層からの湧出が混ざった状態になります。一方で地下水位がT.P.+26.5m以下(Stage2)の場合、地下水面は下末吉ローム層に位置し、湧水は武蔵野礫層からの湧水のみとなります。この時に雨が降ると、降り方によって地下水位・湧出量の反応が大きく異なり、「弱く、持続する雨」の場合、雨水の多くが下層に浸透し湧出量の増加を起こします。また、「強く、持続しない雨」の場合、雨水の多くが武蔵野ローム層中に滞留し、一時的に武蔵野ローム層に地下水面が形成されます。この際に地下水位は急激に上昇するのです。

いかがでしたでしょうか。今回はできるだけ簡単な説明を目指し、水理水頭を用いた説明を省きました。それでも難しい気もするのですが、少しでも研究のイメージをつかんでいただければ嬉しいです。