この記事は2022年海城祭・ミニオープンキャンパスで配布した部誌に掲載したものを一部修正したものとなっています。部誌PDFはこちら
過去の夜空の明るさ研究
天文班員の夜空の明るさ担当です。夜空の明るさ研究という、光害(ひかりがい)に関する研究をやっています。ここではその研究について紹介します。
そもそも光害とは、「照明の設置方法や配光が不適切で、景観や周辺環境への配慮が不十分なために起こるさまざまな影響」で、星空観察への影響が大きいのはもちろん、野生動物・植物・交通への影響も大きいそうです[1]。
そして、(想像できるかもしれませんが)海城中高のある東京都新宿区はかなり光害の影響が強いです。ということで、海城地学部では、かなり前(10 年くらい前?)から「夜空の明るさ」研究をやっています。海城中高 2 号館(赤い大きい建物です)の屋上では SQM という装置を使って、5 分ごとの夜空の明るさを「等級」という単位(星の明るさなどで使う単位)で表して、そのデータを蓄積しています。また、過去の先輩方はこのデータと、上空のエアロゾル量のデータを使い、これらの関係性を調べたり[2]、南極に SQM を持っていき(!)、データを取り、研究に役立てました。しかし、地学部ではここ数年夜空の明るさ研究が行われていなかったので、(やることが無かった僕が)夜空の明るさ研究を再開させました。
東京近郊の光害の差を調べる
最近始まった地学部の夜空に明るさ研究では、「東京近郊の光害の影響の差」について調べようとしています。海城生の通学圏はとても広いことを活用し、1学期にはお試しで、部員の家での夜空の明るさを観測する当番を始めました。当番の部員はSQMを使い、1週間毎日、19時・20時・21時・22時に計測しました。
その結果はこちら。
できるだけ都心と郊外の差を調べたかったので、観測地点(部員の家)の最寄駅から山手線の駅までの所要時間順に並べてみました。しかし、表のように計測結果に大きな差は見られませんでした。一体なぜでしょうか。原因として考えられるのは以下の2つ。
①計測条件の悪さ
SQM の向ける方向に建物があるか無いかなどが大きく結果に関わっている可能性があります。実際に計測場所を変えて値が大きく変わった、というケース(表の一番上など)が複数確認されています。
②天候・月齢・日の入り時刻の変化
過去の夜空の明るさ研究のデータを確認すると、快晴の日のデータのみを使ったり、月齢を考慮したりしていました。そしてこの表を見るとわかる通り、計測日によって雲量や月齢が異なることがわかります。つまり、これを考慮すればもっと実情を反映したデータになると思われます。
今後はこれらの条件を配慮し、部員の家での計測当番やその他の研究を実施しようと思っています。この記事は7 月末に書いていますが、8 月のオンライン天体観測会では、家からどの星が見られるかを星図に記入してもらい、研究に役立てる予定です。計測当番は2 学期に再開し、計測時は装置を天頂に向けることを徹底する予定です。また、データ整理のため、雲量・月齢と夜空の明るさの関係を過去のデータを使って調べる予定です。今後の夜空の明るさ研究にご期待ください。
参考文献等一覧
[1] 環境省「光害について」https://www.env.go.jp/air/life/hoshizorakansatsu/observe-5.html 7 月24 日
閲覧。
[2] 日本天文学会(海城中高地学部夜空の明るさ研究チーム)「エアロゾルが夜空の明るさに及ぼす影響」
https://www.asj.or.jp/jsession/old/2014haru/yokou2014/04.pdf 7 月31 日閲覧。
[3] こよみのページ「月齢カレンダー」http://koyomi.vis.ne.jp/moonage.htm 7 月31 日閲覧。
[4] 気象庁「過去の気象データ検索」https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/ 7 月31 日閲覧。